こうゆうかい 

校友会・交友会

 高齢者医療/災害対策

地震などの災害においては、建物倒壊・火災といった直接的な被害に加え、電気・上下水道・ガス・情報・物流といったライフラインへのダメージが想定されます。
人工呼吸器を使用中である患者さんにとっては、たとえ数分間の機器の不作動であっても生命に直結する脅威になり得ます。人工呼吸器の駆動において重要な要素は、以下の二つになります。
 
①「酸素の供給」:医療ガス室」に置かれた大きな酸素ボンベ内には液体酸素が充填されており、数日に一回業者さんによってボンベの交換が行われます。気化された酸素は、院内に巡らされた「中央配管」を通って各病室の患者さんの元に届けられます。
② 「電力の供給」:院内の人工呼吸器は、平常時は100Vコンセントからの電力供給により作動しています。
次に、災害時におけるケース毎に想定される、問題点と対策を述べます。
 

ケースA:「酸素の供給×」「電力の供給○」:「中央配管」における配管は、銅で作られています。銅は柔軟性(延性:弾性の限界を超えても破壊されずに引きのばされる性質)の高い金属であり、地震の揺れや構造の変形があっても、建物自体が倒壊しないのであれば断裂などはまず発生しないとされています。従って、酸素の供給が止まるような事態の発生確率は高くはないと考えています。万一、酸素の供給が止まっても、電力の供給が保たれる限り人工呼吸器は作動し続けます。ただしその場合の投与酸素濃度は室内大気中と同じ21%となりますから、災害発生前から高濃度酸素を使用していない患者さんであれば、呼吸回数や一回換気量等の調整を行うことで大きな問題は生じないと考えられます。災害発生前から高濃度酸素を利用している患者さんについては、運搬可能な酸素ボンベを人工呼吸器に接続することで対応します。

 
ケースB:「酸素の供給○」「電力の供給×」:前提として、「医療ガス室」から「中央配管」を介して各病室の患者さんの元に届けられる酸素は、仮に停電が起きてもそれ自体の圧力により、平常通り供給されます。しかし、電力の供給がなくては人工呼吸器の作動は止まります。実際に停電がおきた場合、人工呼吸器は一台毎に内蔵されたバッテリーにより、数時間は作動することになっています。「ことになっている」と表現したのは、バッテリーは時間と共に劣化し、個体差も大きいため、定期メンテナンスを行っていても数十分で突然バッテリー切れになることがあります。つまり内蔵バッテリーは、「なにかの弾みでコンセントを抜いてしまった」「落雷によりブレーカーが落ちた」等のごく短時間のバックアップにはなり得ますが、長時間の停電に対する備えとしては全く不十分です。停電時には72時間(燃料(A重油。軽油で代用できる)の補給があれば機器の故障がない限り時間の制限無し)稼働できる非常用発電設備(自家発電機)が起動します。しかしながら2018年に発生した大阪北部地震の国立循環器病センターの例を挙げると、電気・ガス・水道は遮断、非常用発電設備は水没し完全に機能せず、同院は自衛隊に給水車や電源車を依頼しました。人工呼吸器を用いていた50名の患者さんたちは他の病院へと緊急転院になりました。万全の対策をとっている災害医療センターでもこのようなことが起きるのですから非常用発電設備があれば万事問題無しとも言えません。そこで当院は、電力の供給が無くとも、『「中央配管」から供給される酸素の圧力そのもので作動する「簡易的な人工呼吸器」』(スミスメディカル社ニューパックVR1, 写真参照)を、人工呼吸器の台数分(正確には、予備を含め台数以上)だけ用意しています。即ち理論的には、停電の期間が3日であっても10日であっても、酸素の供給が続く限り(人間的に信頼できる医療ガス業者さんとの間で、災害時であっても責任をもって液体酸素の補充を行っていただくよう約束しています)、この「簡易的な人工呼吸器」を用いることで、機械換気(人工呼吸)を続けることが可能です。その他の問題として、停電時には医療用吸引装置が停止します。「吸引の陰圧の発生装置」の駆動には電力が必要である為です。長期に人工呼吸器を利用している患者さんは気管切開を行っており、特に意識状態の悪い方の多くは、定期的な喀痰の吸引を必要とします。当院では停電時に備え、「バッテリー電力で駆動する吸引器」「手動式吸引器」の他に、『中央配管から供給される酸素の圧力そのもので作動する吸引器』を準備しています。
 
ケースC:「酸素の供給×」「電力の供給×」:ケースAに述べた理由から、酸素の供給が止まるような事態の発生確率は高くはないと考えています。非常用発電機が問題無く動作すれば、ケースAと同様に、室内大気中と同じ21%での人工呼吸を行ったり、災害発生前から高濃度酸素を利用している患者さんについては、運搬可能な酸素ボンベを人工呼吸器に接続することで対応しますが、何らかの原因で非常用発電機が動作しない場合は、スタッフの人力で室内気濃度(21%)の酸素を換気しつつ、電力の供給の回復を待つという非常に困難な状況となります。当院では、充分な数の手動式換気装置(アンビューバック)を準備しております。
 
当院ではこれらのケースを想定し、夜勤専従者を含め、定期的に各装置の使用・運用について訓練を行っています。
  酸素 電力 可能性
緊急度
対策
ケース1 ×
21%酸素(空気)
運搬可能な酸素ボンベ
ケース2 ×
内蔵バッテリー
非常用発電設備
電力不要の緊急用呼吸器(VR1)
手動式吸引器
酸素圧で駆動する吸引器
ケース3 ×
×
極めて高
21%酸素(空気)
運搬可能な酸素ボンベ
内蔵バッテリー
非常用発電設備
手動式吸引器
アンビューバッグ 


 大災害時においては、たとえ病院であっても、外部からの迅速な救援は期待できないため、特にインフラ関係についてはできるだけ当院内で完結して供給が可能であるような体制を心がけております。

電力
当院は重要インフラ施設(燃料パイプライン)の近傍に立地しておりますので、停電しにくい状況にあります。
充分な発電容量を持つ非常用自家発電装置を設置しており、2tレベルの燃料備蓄を行っています。また、定期的に動作確認を行っております。
電力が途絶えると、「吸引」設備が停止するため、無電力でも作動する(酸素の配管により作動)吸引装置を準備しています。
モバイルバッテリーを有しております。
水道
大規模工場と同様の井水(地下水をくみ上げる井戸+浄化設備)プラントを有しており、平常時でも大部分井水により運用を行っておりますので、当院内の設備が破壊されない限り、平時と同様の医療が行えます。
情報
業務効率化の観点から、電子カルテを導入していませんので、停電やインターネット遮断時においても放射線画像閲覧を除き、平時と概ね同様な医療が行えます。マルウェア/ウイルスによる情報漏洩のリスクが低く、ランサムウェアによる被害はあり得ません。
災害用優先電話回線を有しております。
アマチュア無線資格所有者がおり、無線機器を保有しております。
ガス
プロパンガスを利用しておりますので、当院内の設備が破壊されない限り、平時と同様の医療が行えます。
酸素
大型タンクの設置を行うことで、余裕の持った運用を行っております。
浸水対策
館外においては浸透性のコンクリート舗装を行っております。
建築工事用のポンプを保有しております。
防火
物流
コロナ禍の教訓を元に、平時より物資の備蓄管理に留意しております。
交通
東関東自動車道ならびに京葉道路の側に立地しており、千葉北インターから近く、災害時においては有利な状況かもしれません(ただし近くに鉄道駅が無いため、平素より御迷惑をおかけしております)。